テンポラリーラブ物語
 氷室はコンピューターを操作しながら、前日の見合いのことを考えていた。

 ジンジャに皮肉を言ったところで、結局は自分の愚かさをさらけ出し、それに反発してなゆみは目の前でジンジャと手を繋いで去っていった。

 慙愧(ざんき)にたえない思いだけが残った。

 あの後、席に戻っても氷室は自分の思うようにいかないことにイライラして、まるで高校生のガキのようにふてくされた態度を露骨に見せていた。

 父親に足を何度と蹴られて、後で見れば青あざができている始末だった。

 どれほど蹴られたんだと、見合いでの自分の態度の悪さに改めて気が付かされた。

 それでもあの親子は氷室を気に入って、何事にも動じなかった。

 あの見合いの目的は幸江の父親の跡取り探しであり、氷室が全ての条件を持ち合わせ、娘と結婚させると都合がいいと言わんばかりのものだった。

 幸江は一人娘で大人しく、お嬢様のように育てられて上品な感じがするが、なんとも面白みに欠けてつまらない。

 あんな人形と一緒にいることなど氷室は耐えられなかった。

 だが仕事は魅力的だった。

 結婚すれば時期社長も夢ではないほどに、会社ごと自分の物になる。

 すでに土台が出来上がっている状態だと、何でもやりやすくなる。

 人に使われずに、自分が指示を出し、自分に従わせる権力。

 それがすんなりと手に入る。

 だが、自分を犠牲にしてまで手に入れる事だろうか。

 一からコツコツと自分で築きあげていく。

 それが例え失敗しようが、それでも自分の力でやってみたい。

(そんな気持ちに久々になれたのも、お前がいたからなんだよ)

 そっと物寂しげになゆみの後姿を見ていた。

 そんな時に、

「ヘイ、ショーン!」

 なゆみがいきなり声をあげ、ハイテンションで英語を話し出した。

 何事かと氷室と千恵がびっくりしてしまった。
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