テンポラリーラブ物語
なゆみは下を向き、おぼつかない足取りで歩いている。
それを庇うようにジンジャが肩に手を回して労わっていた。
なゆみはジンジャを見つめて、手で目の辺りに触れている様子からして涙ぐんでいた。
街明りに照らされたなゆみの表情は、恥じらいながら笑顔になっている。
それが一線を乗り越え、関係が深まった姿に見えた。
なゆみとジンジャは親密に、体を密着させてお互いを気遣いながら歩く。
二人の結ばれた事実を氷室が知るには、充分過ぎる光景だった。
これで完全に諦められる──。
二人が遠くへ行ったところで、氷室は幸江と一緒だったことを思い出した。
「す、すみません。見てみないフリをした方があの子達のためだと思いまして」
「いいんですよ。気になさらないで下さい」
幸江は気を遣っていたが、女の勘で、氷室がなゆみを好きでいたということに感づいてしまい複雑な思いを抱いていた。
氷室はその後、落ち込んだように無口になって、静かに幸江と肩を並べて歩いていた。
大通りに出ると、幸江はタクシーを呼び寄せた。
「コトヤさん。私タクシーで帰ります。今日はどうもありがとうございました」
「いえ、何もできなくて申し訳ありませんでした。それじゃまた連絡します」
「ええ、楽しみに待っています。あの、コトヤさん……」
「はい?」
「いつか私のこと気に入ってもらえるように、私も努力します。まずはコトヤさんが正直になんでも私に話して下さい。私いつでも受け止める覚悟はできてますので。一人であまり抱え込まないようになさって下さいね」
「幸江さん……」
氷室に一礼をすると、落ち着いた笑顔を見せてタクシーに乗り込んで行ってしまった。
それを見つめつつ、全てを見通した幸江の物わかりのよさに、氷室は侮れないものを感じていた。
大きなため息を一つ吐いて、のろのろと歩き出す。
後戻りできないところへ来てしまったと痛感していた。
偶然落ちていた空き缶を見つけ力強く蹴りあげれば、その音は虚しくカランコロンと遠くへ転がり去っていった。
一方、なゆみ達は、お互いを大切に思い、身を寄り添って歩いている。
駅に来たときになゆみはジンジャに向かって必死で自分の気持ちを伝えようとした。
「ジンジャ、私、不器用でごめんね。その…… うまくいかなくて」
「何言ってんだ。全てを含めてそれがタフクなんだ。だから気にするな。お前はそのままで充分だよ。何も恥ずかしがることなんてないよ。それよりも俺が傷つけてないかが心配なくらいだ。大丈夫か?」
「うん、ジンジャが私のこと大切にしてくれたからもちろん大丈夫。でもなんかジンジャに迷惑かけて……」
「だからもういいってば。あれはあれでいいんだよ。本当にありがとうな。俺は自分に満足だよ。タフクを好きになってよかった」
「ジンジャ、ありがとう」
「それじゃ。またな」
「うん。またね」
なゆみはジンジャと駅で別れるが、最後までジンジャの姿を見ていた。
ジンジャは一度振り返り、大きく手を振った。
そしてすっきりとした笑顔を見せる。
なゆみもまたそれに精一杯応えて、手を大きく振っていた。
ジンジャの優しさを体全体で感じていた。
それを庇うようにジンジャが肩に手を回して労わっていた。
なゆみはジンジャを見つめて、手で目の辺りに触れている様子からして涙ぐんでいた。
街明りに照らされたなゆみの表情は、恥じらいながら笑顔になっている。
それが一線を乗り越え、関係が深まった姿に見えた。
なゆみとジンジャは親密に、体を密着させてお互いを気遣いながら歩く。
二人の結ばれた事実を氷室が知るには、充分過ぎる光景だった。
これで完全に諦められる──。
二人が遠くへ行ったところで、氷室は幸江と一緒だったことを思い出した。
「す、すみません。見てみないフリをした方があの子達のためだと思いまして」
「いいんですよ。気になさらないで下さい」
幸江は気を遣っていたが、女の勘で、氷室がなゆみを好きでいたということに感づいてしまい複雑な思いを抱いていた。
氷室はその後、落ち込んだように無口になって、静かに幸江と肩を並べて歩いていた。
大通りに出ると、幸江はタクシーを呼び寄せた。
「コトヤさん。私タクシーで帰ります。今日はどうもありがとうございました」
「いえ、何もできなくて申し訳ありませんでした。それじゃまた連絡します」
「ええ、楽しみに待っています。あの、コトヤさん……」
「はい?」
「いつか私のこと気に入ってもらえるように、私も努力します。まずはコトヤさんが正直になんでも私に話して下さい。私いつでも受け止める覚悟はできてますので。一人であまり抱え込まないようになさって下さいね」
「幸江さん……」
氷室に一礼をすると、落ち着いた笑顔を見せてタクシーに乗り込んで行ってしまった。
それを見つめつつ、全てを見通した幸江の物わかりのよさに、氷室は侮れないものを感じていた。
大きなため息を一つ吐いて、のろのろと歩き出す。
後戻りできないところへ来てしまったと痛感していた。
偶然落ちていた空き缶を見つけ力強く蹴りあげれば、その音は虚しくカランコロンと遠くへ転がり去っていった。
一方、なゆみ達は、お互いを大切に思い、身を寄り添って歩いている。
駅に来たときになゆみはジンジャに向かって必死で自分の気持ちを伝えようとした。
「ジンジャ、私、不器用でごめんね。その…… うまくいかなくて」
「何言ってんだ。全てを含めてそれがタフクなんだ。だから気にするな。お前はそのままで充分だよ。何も恥ずかしがることなんてないよ。それよりも俺が傷つけてないかが心配なくらいだ。大丈夫か?」
「うん、ジンジャが私のこと大切にしてくれたからもちろん大丈夫。でもなんかジンジャに迷惑かけて……」
「だからもういいってば。あれはあれでいいんだよ。本当にありがとうな。俺は自分に満足だよ。タフクを好きになってよかった」
「ジンジャ、ありがとう」
「それじゃ。またな」
「うん。またね」
なゆみはジンジャと駅で別れるが、最後までジンジャの姿を見ていた。
ジンジャは一度振り返り、大きく手を振った。
そしてすっきりとした笑顔を見せる。
なゆみもまたそれに精一杯応えて、手を大きく振っていた。
ジンジャの優しさを体全体で感じていた。