テンポラリーラブ物語

 氷室は同じビルにある居酒屋で純貴と酒を交わす。

 会社を出れば二人は友達同士だった。

 忙しく調理する店員の姿をカウンター越しに見ながら、二人はジョッキを握って生ビールをぐっと飲んでいた。

 氷室の息がふーと漏れる。

 ビールを飲んで満足した気持ちではなく、どこかやるせなく不意に漏れた嘆きごとのように聞こえた。

「コトヤン、最近益々ふてぶてしくなったね。どうしてもっと楽しくしないんだ。俺みたいに気に入った子がいたら、声かけてみたらいいじゃないか。コトヤンは高校生のときは女の子に良くモテては俺よりプレイボーイだったろ」

「そっか? 忘れた」

「お前、大人になって性格変わったな。あれだけ野心に溢れていたのに、なんだこの差は?」

「だからそういうのを大人になったって言うのさ。もうガキじゃあるまいし、粋がってみても虚しいだけさ」

 氷室はまたビールを飲んだ。

 純貴は料理をつまみながら、聞いているようで聞いていなかった。

「ところで、あの新しく入った子。元気で気持ちいいけど、なんか女っ気ないな。高校生みたいでガキっぽい」

 女を品定めする癖のある純貴が言いそうなことだった。

 氷室も適当に聞いていた。

「まあ仕事はちゃんとしてくれそうだから、いいんじゃないか。どうせ8月一杯までだろ。あっという間に去っていくよ。そしていずれは俺たちの記憶からも消去される」

「まあ、そうだな。それにしても本店はもう少し色っぽいの入れないと、正社員の上野原と敷川は味気ないな。その点、アルバイトの美穂はなかなかだぞ」

「それが昨日の相手か」

「さあ、なんのことですか」

 わざとらしくとぼけているが、ばれているのは本人も自覚していた。

 そしてビールを一飲みして、その話は終わりだとリセットしたかのように見えた。

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