テンポラリーラブ物語
「コトヤンはずっと俺と一緒に働いてくれるのか。コトヤンが居てくれたら俺も心強いからな。なんせ頭はずば抜けて切れるし、器用だから店を任していても安心できる」

「お前もちょっとは仕事しろよ。いつかは社長だろ。しっかりしないと従業員ついてこないぞ」

「だから言っただろ、コトヤンがいるから安心できるって。お前みたいな優秀な社員を破格で雇えるのはほんとラッキーだった」

「何言ってんだ。こんな仕事誰だってできるし、誰がやっても同じさ。優秀社員が必要な程の会社かよ」

 馬鹿げたことのように言ってみたが、よく考えれば純貴の会社だった。

 馬鹿にしたと誤解されてはないかと、氷室は焦りながらジョッキに残った生ビールを一気に飲み干した。

「そうだよな。大した仕事じゃないよな」

 純貴は自虐したように呟いた。

 この話もまたこれ以上しては行けないとそれで終わった。

 二人は暫く思い出話をしては、学生時代の頃に戻っていく。

 若かりし頃の氷室。

 まだ世間など知らず、若さゆえに好きなことができて、思うように何でも実現できると信じていたあの頃。

 自分も認めるほど青二才だった。

 情熱を持った自分を回顧しているとき、ふとなゆみのことを思い出す。

 あの子はまだ20歳になったばかりだと言っていた。

 好きなことに一生懸命になり、その目標のために前向きでひたすら頑張っている。

 くじけないで笑顔を常に見せることができるのも、彼女の夢や希望がはじけてくよくよしている暇などないのだろう。

 あの笑顔だけは光を浴びているような気にさせられる。

 氷室はなゆみの笑顔を思い出しながら、空になったジョッキを見つめていた。
< 21 / 239 >

この作品をシェア

pagetop