テンポラリーラブ物語
「もう一杯飲んでみようかな」

 氷室はなんだかぐっと飲み干したい気分に駆られていた。

 そして二杯目のビールを飲んだあとは、はじけたような息が喉の奥が突付かれたように出てきた。

 自分が何かに影響を受けている。

 久々に味わうように、少し気分がよくなり、ビールが美味しいと思った瞬間だった。

 

 純貴のおごりだということで金を心配することもなく、すっかりほろ酔い気分に氷室はリラックスしていた。

 会社では専務だが、昔からの友達という立場は変わらない。

 女癖は悪いが、気前のいいところやあっさりとしたところは純貴の長所であり、氷室もそういう部分は好きだった。

 腹も満たされたとき、純貴に携帯電話がかかってくる。

 それがお開きのサインとなり、純貴はこの後用事ができたと笑っていた。

 それは浮気相手に違いなかった。

 そんなことはどうでもいいと、氷室は何も聞かないで礼を言って別れた。

 地下街から上に行こうとエスカレーターに乗って一階についた時、また英語交じりの会話が聞こえてくる。

 前方にはちょうど外へ出ようとしていた何人かのグループがドア付近に居て、そこになゆみも混じっていた。

 あの大きな鞄ですぐに分かった。

 まだこのビルにいるということは、仕事の後、英会話学校へ行って英語を勉強していたのだろう。

 氷室は後ろを付けた訳ではないが、駅へ向かう方向が同じだったので、気づかれないようになゆみの後ろを離れて歩いていた。
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