テンポラリーラブ物語
 昼からはアルバイトの美穂が加わった。

 美穂は純貴と、こそこそと秘密の会話を離れたところから視線を投げ掛けて、やり取りしている。

 氷室はうっとうしいと思いながらも、表面上は何も知らぬふりをする。

 ミナと紀子も薄々感じているのか、美穂の態度が鼻についていた。

 本人を目の前にしては全く問題にしてないふりをしているが、時々二人が顔を合わせて文句を態度で表してる様子だった。

 美穂の本業はコンパニオンであり、仕事がまちまちなので、予定がないときはここへ働きに来ていた。

 コンパニオンというだけで、顔もスタイルもよく、ゴージャスな雰囲気がオーラとなって現れている。

 立ってるだけで華やかになるのは店にとっても宣伝になっ た。

 そう思っているのは採用した純貴だけかもしれないが。

 立ち仕事が多い中、美穂は常に座る仕事を優先にしていた。

 特に純貴が居るときは横柄になり、我がもの顔だった。

 ミナと紀子は何も言わずひたすら我慢しては、ピリピリとした電気を溜め込んでいた。

 何も知らないのはなゆみで、相変わらず元気よく自分の道まっしぐらで接客していた。

 そんな時、あるべきところにあるはずのファイルがなく、美穂はすぐに手に入れられない苛立ちで不機嫌になる。

 そこになゆみがそのファイルを持ってきたのは、タイミングが悪かった。

「ちょっと、どうしてあなたがそれを持ってるの。新人の癖にまだこの仕事は早いわよ」

「すみません。ちょっと見よう見真似でやってしまいました」

 素直になゆみは謝っていた。

 それを鼻で馬鹿にするようにそのファイルを美穂はひったくる。

 なゆみはバツが悪いような表情を一瞬見せたが、再度軽く頭を下げた。

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