テンポラリーラブ物語
11
「タフク!」

「あっ、ジンジャ!」

 二人が名前を呼び合っている傍で、氷室も「あーあ」と声を出した。

「お前、こんな時間にこんなところで何してんだ」

「えっ、ジンジャも何してるの」

 ジンジャは氷室を一瞥した。

 ジンジャの眼鏡の奥の瞳をぶつけられ、氷室の体は無意識に後ろに逸れていた。

 その逸れた後ろの奥の路地から、明るく照らされた看板がジンジャの視界に入ると、今度はそれに焦点が移ってジンジャは「はっ」と目を大きく見開いた。

 氷室はすぐに感づく。

「何か誤解してるようだが、私たちはそのような関係じゃない」

 だが口に出せばあまりにも陳腐で、わざとらしく聞こえるようなセリフだった。

「そのような関係ってなんだよ」

 ジンジャは意外にも氷室につっかかる。

「ジンジャ、どうしたの。ジンジャが心配するようなことなんてないから。この人、仕事場の上司の氷室さん」

 氷室は紹介を受けて、それらしく堂々と背筋を伸ばした。

「苦手だって言ってた奴じゃないか。どうして、そんな奴と一緒にこんなところに」

 ジンジャは驚きを隠せない。

「いや、だから、その君が誤解しているようなことは何も……」

 氷室はそう言いかけたが、こうなってしまったのは元はと言えばジンジャのせいだった。

 自分は好きなことしておいて、あれこれなゆみを束縛する資格がないと思うと、勝手な振る舞いに腹が立ってきた。

 なぜこんなガキに付き合わねばならぬと苛立ってしまい、いつもの癖がでると、冷めたきつい目つきに変わっていた。

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