別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
隣を歩く奏人の整った横顔をチラリと見た時、高い声が聞こえて来た。

「奏人!」

奏人が反応して歩みを止めたから、私も合わせて立ち止まる。

「奏人」

もう一度声がしたので振り向けば、見た事のない若い女性が近付いて来るところだった。

「知り合い? あの人……」

そう言いながら奏人を見た私は口を閉ざした。
奏人の顔が、強張っていたから。

どうしたのか聞こうとするより早く、女性は私達の目の前まで近付いて来た。

「奏人、久しぶり。こんな所で会うとは思わなかった」

女性は奏人だけを見つめて、少し微笑みながら言う。

その口調はかなり親し気に感じる。

でも、奏人は彼女に対して好意的ではない表情だ。

ふたりはどんな関係なの?

改めて女性を見る。

背中を覆う真っ直ぐな黒髪に、落ち着いた色のメイク。

平均的な身長だけど、凄くやせていている。

大人しくて真面目そうな印象の人だ。

だけど、奏人の隣に居る私に一切目を向けないところが気にかかる。

普通だったら、連れがいたら会釈くらいすると思うんだけど。

ふたりの間に割り込んで挨拶するのも躊躇われ戸惑っていると、奏人が私に身体を向けて言った。

「中瀬さん、俺は用が出来たから先に行ってくれるかな?」

奏人の表情も声も完全に仕事モード。

同僚に対するものだ。

別に冷たくされた訳じゃないんだけど、他人行儀なその態度に少し動揺してしまう。

だけど私は何も言わずに言われた通り、ひとりで駅に向かう。

背中に視線を感じるし、私も奏人が気になって仕方なかったけど、振り向かなかった。

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