別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「私はアイケー産業に資料を届ける為、外出したんですよ。北条さんは顧客との打ち合わせに出ていて戻りは夕方になると思います」

一緒にランチをしたって情報は、とりあえず黙っておく。

「あらそうなの? 行き先は別だったのね」

「そうですよ」

また長居されても嫌だから、余計なことは一切話さないスタイルを通す。

だけど松島さんは納得出来ないようで、私に身体を近づけながら探りを入れて来た。

「北条君と中瀬さんって、凄く親しいわね」

「そんなことないですよ」

「ううん、みんな気にしているのよ」

気にしてるは松島さん自身ですよね? 
と言いたい気持ちになりながら、とぼけたふりをする。

「そうなんですか?」

「そうよ。ねえ、本当に北条君とは何もないの?」

「ありませんよ」

嘘だけど。

「それならいいけど。公私混同にならないように気をつけてね」

「……はい」

憂鬱な気持になりながら頷く。

干渉して来る松島さんに対する不快感だけじゃなく、躊躇いなく嘘を言う自分自身にも嫌悪感が湧いてくる。

だけど、本当の事なんて言えるわけがない。


デリケートな問題を大して親しくない先輩に話したくないし、言ったらきっと大騒ぎになってしまうし。

仕方ないんだけど、気分が沈むのを止められない。

ランチは楽しかったのに、そのあとが下降の一途だ。

こんな時は気分転換をしたい。

何か楽しいことをして……そう思っていたら梓からの飲みの誘いが入った。

良いタイミング、さすが梓。

迷いなくお誘いを受ける返事をしてから仕事を頑張り、一時間ほど残業をしていつもの居酒屋に向かった。
< 103 / 208 >

この作品をシェア

pagetop