別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
またこの人……以前も、奏人と一緒に居るところに突然割り込んで来たよね。


奏人の名前を呼び捨てにして、遠慮なく話しかけて来るなんて……。

ふたりはどんな関係なんだろう。

立ち尽くす私の隣から、疲れたような溜息が聞こえて来た。それから続くうんざりしたような声。

「俺に何か用?」

私は思わず奏人の顔を凝視する。

冷たくて投げやりな声音が、奏人のものと思えなかったからだ。

私は、こんな態度を奏人にとられたらかなり傷付くと思う。

でも、声をかけて来た女性は堪えた様子はなく、ゆっくりと近付いて来た。

「偶然奏人を見かけたから追いかけて来たの。私達まだ話し合いが終ってないでしょ?」

「偶然?」

奏人が冷笑する。

「そう、偶然。駅でみかけたから」

女性がニコリと微笑みながら言う。

「自宅も会社も反対方向なのにか?」

「先週越して来たのよ。駅から十五分位歩いたところに有る、レクセルハイツってマンション」

レクセルハイツは、私のアパートの直ぐ近くにある、規模の小さなマンションだ。

結構年季の入った建物だけど、先日壁の塗り替え工事をしていて、一見小奇麗になった。

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