別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「理沙、大丈夫か?」

周囲を憚った小声だけれど、優しさを感じる。

「大丈夫。ごめんね、騒ぎを大きくしちゃって」

「理沙のせいじゃない……その手、どうした?」

奏人は赤く擦りむいた私の手を見て、顔をしかめる。

「さっき転んだ時にちょっと」

咄嗟に地面に手をついたから、擦ってしまったみたいだ。

「朝美のせいか?」

奏人はかなり苛立っているようだ。
この状況じゃ、無理もないけど。

「確か総務に消毒液が有ったな、行こう」

奏人は私に声をかけると、オフィスビルへと向かって行く。

「朝美さんとの話し合いは、私も参加した方がいいんでしょう?」

後を追いながら聞くと、奏人は頷いた。

「理沙抜きじゃ滝島課長が納得しないだろうな……ごめん、巻き込んで」

「奏人のせいじゃないよ。それに私も話を聞きたい気持ちが有るから」

蚊帳の外にされて、何が起きているのか気にしながら過ごすよりは、渦中にいた方がずっとまし。

何があっても奏人と一緒に解決していきたいもの。


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