別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
しばらくすると、ざわざわとしていたホールが静まり返った。

マイクが置かれた舞台に、社長を始めとした役員達が出て来たのだ。

総務部長が開催の挨拶をし、続いて社長の話になる。

今期の経営は順調、来期は現状を維持するだけでなく、チャレンジの年としたい。社長はそんなことを言っていた。

社長の話が終ったら次は乾杯をして、お酒を飲みながらの懇親会になる。

その盛り上がった状況で最後のイベントとして社長から優秀な社員へお褒めの言葉があるはずと聞いていた。

まだ大分時間がかかる。

本来なら楽しい懇親会も、今日の私は緊張感が勝って楽しめそうにないな……そう思っていたとき、突然社長が奏人の名前を口にした。


「営業一課の北条君の企画商品が前評判、初動売上げ共に好調です。昔ながらの玩具に最新の技術を加えた素晴らしい商品は今後の企画の参考にしてもらいたいと思います」

社長が言い終えると、小さなざわめきが、ホールのいたるところで起きる。

驚いて咄嗟に反応出来ない私の腕を、隣にいた梓が興奮気味に掴んで来た。

「ねえ、奏人君が呼ばれたよ!」

「う、うん……」

「良かった!」

嬉しそうな梓を見ていると、実感が湧いて来た。

奏人に目を向ければ、彼も驚いている様で、隙の無い仕事用の顔ではなく素の表情になっていた。

奏人……本当に良かった。

今すぐに駆けつけて良かったねと言いたい気持ちをぐっと堪えていると、奏人が私の方に目を向けた。

しっかりと視線が重なりあう。

それだけで、気持ちが伝わった気がした。

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