別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「あっちのテーブルにロースとビーフあるよ」

「え? じゃあ向こうに行こうよ」

肉好きの梓に言うと、直ぐに乗って来た。

だけど、お酒の入ったグラスを手にしたまま移動しようとした時、呼び止められた。

振り返ると、剣呑な空気を纏った滝島課長の姿があった。

い、嫌な予感。

梓もそう感じたらしく、緊張する気配が伝わって来た。

「中瀬君、おめでとう」

滝島課長が驚くくらい大きな声を出したから、周りで談笑していた人達の視線が一気に集まってしまった。

「おめでとうと言ってるんだが?」

相変わらず大きな声。

周りの人達は怪訝な顔になる。

「あ、あの……」

「恋人の部長昇格が決まったんだ、もう少し喜んだらどうだ?」

はきはきとした声で発せられたその言葉に、私は目を見開いた。

そしてそれを聞いていた社員達が、どよめき始める。

信じられない思いで滝島課長を見ると、意地悪そうな細い目と視線が重なった。

……これって嫌がらせだ。

奏人に負けた腹いせに、私に嫌がらせをしているんだ。
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