別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~

再び静まり返ったホールに、少しずつ音が戻って来る。

遠巻きに見ていた人達が奏人に近付いて来て、声をかけた。

「北条さん大丈夫ですか?」

「はい、お騒がせして申し訳有りません」

奏人が回りの人達に頭を下げる。

「いえ、驚きましたよね。あの滝島課長があんな風になるなんて……飲みすぎたにしても驚きました」

同調する声が広がっていく。

皆の認識はやっぱり悪酔いした課長が、奏人に絡んで騒ぎを起したってなってるようだ。

奏人には同情的な様子で安心したのだけれど、それもつかの間で、奏人と同年代の男性社員が奏人に尋ねてきた。

「あの、さっき課長が言っていた、中瀬さんと付き合ってるって本当ですか?」

ギクリと身体が強張ってしまう。

どうしよう。奏人はなんて答える気なの?

奏人は振り返り、不安に苛まれる私を見て微笑んだ。

その全く焦った様子のない態度を怪訝に感じている内に、奏人は男性に向き直り宣言した。

「本当ですよ。中瀬さんと婚約しています」

その瞬間、どよめきが今までで一番大きくなり、奏人の周りにはもっとも詳しい事を聞きたい人達が集まって来た。

当然、私の周りにも。

「中瀬さん、どういうこと? 馴れ初めは?」

これはもう誤魔化せない状況だ……もうどうにでもなれ!

開き直った私は、次から次へと来る質問に、半ばヤケになって答えていった。


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