別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
関係
私と奏人の関係はただの同僚になった。

少し気まずいけれど、今の私にとっては一番良い関係だと思う。

ただの同僚だから、触れ合う事はしない。

奏人は最後にギュッと強く私を抱き締めてから離すと、さっき迄の様に勝手に触れて来る事は無くなった。

「……じゃあ、そろそろ帰るね」

私は床に置いて有ったバッグを拾い、奏人に告げた。

いつまでもこの部屋に二人きりではいられない。
話もひと段落したし帰りたかった。

今の私は冷静じゃないし、一人でゆっくり考えたい。

「送るよ」

奏人が当たり前の様に言い、私と一緒に部屋を出ようとする。

「一人で大丈夫だよ」

何度も通った慣れた道だし、わざわざ送って貰う必要はない。

「もう遅いから送る」

でも奏人は聞き入れるつもりはない様で、玄関に行き靴を履いている。

ただの同僚でも送るものなのかな?

そんな事を考えながら、奏人に続いて玄関に向かう。

玄関には他の靴が一足も無い事に今更気が付き、私はこの部屋に入った時感じた事を思い出した。

ーーこの部屋からは生活感が消えているーー

私はパンプスを履き終えると、奏人に問いかけた。

「奏人はもうこの部屋には住んでないんでしょう?」

奏人の表情が僅かに曇った気がした。

言いたくない事なのかもしれない。

「……ごめん、ちょっと気になっただけ。言いたく無いなら答えなくていいよ」

そう言いさっさとドアを開けて出て行こうとすると、奏人が慌てた様子で言った。
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