別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「片付けは終わった?」

今日も極上のイケメン姿の奏人が、親し気に話しかけて来る。

まるで恋人に対する様な優しい微笑み、漂う甘い空気……ついうっかり見惚れかけてハッとした。

ここはオフィス。しかも周囲の視線は集中している。更に私達の関係はただの同僚。

この雰囲気は絶対に変!

今すぐ妙な空気を醸し出すのを止めろと訴えるべく、奏人に視線を送ったその時なぜか松島さんが発言をした。

「北条君。中瀬さんはまだ引っ越し準備中だから、仕事だったら私がやるわ」

ずいと一歩前に出て言う松島さんに、奏人は驚いてしまったようだ。

半分身体が引きかけている。

……松島さんって、やっぱり自身が一番奏人を狙ってるよね。

昨日は私に奏人を勧めるような事を言ってたけど、あれは表向きの話なんだろうな。

この状況で「もう片付け終わっていますよ」なんて言って邪魔する勇気は無く、黙って成り行きを見守っていると、自分を立て直したらしい奏人が丁寧に、けれどはっきりと松島さんの申し出の御断りをしていた。

残念そうな松島さんを早々に放置して、奏人は私に向かって言う。

「重い物は俺が運ぶから」

優しい声。そして松島さんの視線は痛い。

「大丈夫です。引き出しはキャスター付いてるので」

空気を読んで断わる私を無視して奏人はテキパキと私のデスクトップPCを運び始め、新しい席に設置して配線までやってくれる。

今までうちの部署に、ここまで過保護に面倒見てくれる男性社員はいなかった。

PCの設置なんて一人でも十分出来るし、重い荷物だってちょっと頑張れば女性一人でも運べるからだ。

自分の事は自分で。

そういったスタンスだったんだけど、こうして手伝って貰うとやっぱり助かるし嬉しい。

チラチラ見ている人達も、目を逸らさずじっと見ている松島さんもそう思っていると思う。

奏人の好感度は益々上がったに違いない。
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