別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
気付けば奏人の話は終わっていた。

あまりの事に反応が出来ないでいる私を、奏人はふわりと優しく抱きしめて来た。

それはいつもの事。

私が落ち込んでいたり、悲しんでいたりすると、奏人はこうやって優しく抱きしめて慰めてくれていた。

だから、奏人としてはごく普通の行動だったのだろうけど、今の私にはとても受け入れられない。

背中に回された奏人の大きな手が剥き出しの肌に触れた瞬間、身体に寒気が走る。

もの凄い嫌悪感で、私は考えるより先に思い切り奏人を突き飛ばしていた。

「……理沙?」

奏人はキョトンとした顔をしている。

見慣れたはずの顔なのにもう別人としか思えない。

「触らないでよ!」

苛立って叫ぶと、奏人は必死で私を宥めようとする。

「理沙、どうしたの?」

「どうしたのって……一年も私を騙しておいて、よくそんな事が言えるね! 」

「理沙落ち着いて。驚かせたとは思うけど、俺自身は何も変わってないんだよ?」

何も変わってない?

……そんな訳あるか!

私の中に誠実で優しかった奏人はもう居ない。

目の前に居るのは、笑顔の裏で人を平気で騙せる心無い人なのだ。

私は怒りと共にベッドから降り、次々と服を着ていく。

他人の前で何時までも裸でなんていられない。

身支度をすると、私は奏人を睨んで言った。

「早く出て行って!ここは私の部屋なんだから!」

「待って理沙。話を聞いてくれ」

「嘘つきの話なんて聞きたくない」

耳を塞ぐ私にウンザリしたのか、奏人は溜息を吐い言った。

「今日は帰る。後で落ち着いて話し合おう」


話し合う事なんてもう何も無い。

だって、私達はもう終わりなんだから。

声に出来ないまま奏人を見送り一人になると、私はベッドに突っ伏して声を上げて泣いた。
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