別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
まさか、部長の前で気安く声をかけてくるなんて事は無いよね?

昨日、自分で仕事には私情を挟まないでくれって、豪語したくらいだし。

あれは半ば勢いで言ったらしいけど、でもさすがにこの状況で「理沙、一緒にランチに行こう」なんて言う訳は無いと信じたい。

松島さん達はもちろん、部長にだって奏人との事は知られたく無い。

大丈夫だろうとは思いつつ、念の為、迅速にその場を去ろうと椅子から腰を上げかけた時、低いけれどよく通る奏人の声が響いた。

「中瀬さん、今日は外食?」

「……はい」

苗字で呼んで来たし、奏人的には一応気は遣っているのかもしれない。

でも、今わざわざ話しかけて来なくてもいいのに。

ほら、部長にまで注目されてしまっているじゃない。
これ以上変なイメージは持たれたく無いから、極力目立ちたくないのに。

でも私のそんな気持ちに気付かないのか、奏人はとても自然な口調で言った。

「外食なら一緒に行かないか?」

「いえ、私は何か買って来てここで休憩しますから」

そう返事をして、そそくさと外に出て行こうとした。

少し素っ気ない声になったせいか、奏人もそれ以上誘って来る気は無いようだった。

ようやく私の気持ちに気付いてくれたみたいだ。
良かった。

買って来るって言ってしまったし、お昼ご飯はカフェは諦めて適当にコンビニのパンか何かで済ませよう。

と、思ったその時、ニコニコと笑顔を浮かべて私達の会話を見守っていた部長がここに来て口を開いた。
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