別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「中瀬さん、せっかくだから一緒に昼食を頂きましょう」

「え? あの……」

「中瀬さんにはこれから北条君と組んで貰うと訳ですから、親睦を深める良い機会だと思いますよ」

いや、これ以上親睦を深める必要は全く無いのですが。
むしろ、平和的に距離を置いている最中なので。

なんて言えるはずも無く、私は部長には曖昧に微笑んで誤魔化してから、素早く奏人に視線を向けた。

昨日のやり取りで、奏人が実は良く口が回る男だったと判明している。
きっと上手く、フォローを入れてくれるはず。

なんて思った私はバカでした。

奏人は私から目を逸らし、我関せずって顔をしている。

さっきまではずっとこっちを見ていたくせに、今になって知らんぷりをするなんて、絶対にワザとやっている。

奏人は口が回るだけじゃなく、悪知恵も働く男になってしまったようだ。

唖然とする私に、のんびりした部長の声がかかる。

「中瀬さん行きますよ」

「は、はい」

行きたくないけど逆らえる訳がない。

頑なに拒否したら協調性が著しく低い、なんて評価になってしまうかもしれないし。
昼休みは仕事じゃないけど、部長って結構職場でのコミュニケーションを大切にするタイプだから。

とっても憂鬱だけど仕方ない。

私は、奏人に恨みの視線を送ったり、コッソリ溜息を吐いたりしながら、部長達と奏人の後に付いてオフィスを出た。
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