別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「理沙は部長の事苦手じゃないだろ? 温厚な部長の下で働きやすいって何度も聞いたけど」

「苦手って訳じゃないし、上司として尊敬しているけど、でも一緒にランチなんて緊張しちゃって安らげないよ」

昼休みは余計な事は考えないで、ボンヤリしていたいのに。

それにしても、過去に何の気なしに話した会社の話を、奏人はしっかりと覚えている様だ。

当時はまさかこんな状況になると思っていなかったから、結構愚痴を言ってしまった覚えがある。

会社の体制の悪口とかも、熱く語ってしまった。奏人が経営側の人間だと知りもせずに。

……考えると最悪な気分になる。

「本当に奏人って酷いよね」

「えっ⁉︎ 何で急に?」

奏人が大袈裟なくらい動揺する様子を見せた。

「私の会社の愚痴を何も知らない顔して聞いていたじゃない。自分の家の会社の文句を言われているのに」

「それは……知らないふりをするしかなかったから」

奏人は今度はかなり気まずそうに、歯切れ悪く言う。

「そうだよね。知らないふりするしかないよね。知ってるなんて言ったら嘘がばれちゃうんだから」

話し合いをして一応の決着を付けたはずなのに、奏人に騙されていた事実を無かった事に出来ない私は、些細なキッカケで文句を言ってしまう。

奏人もウンザリしているだろうな。
そう分かっているけど、止められない。

「私の愚痴を聞いて馬鹿だなって思ってたんでしょ? 私の悩みなんて上の立場の人から見たらどうでもいい事ばかりだもんね」

しつこい私に奏人もそろそろ怒るかもしれない。そう思ったけれど、奏人の反応は予想と違かった。
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