別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「馬鹿だなんて思う訳ないだろ? それにどうでもいいとも思わない。理沙の話を適当に聞いた事なんて無いよ」

穏やかに、宥める様に言われて、私の愚痴は勢いを失った。

だって奏人が私を見る目はとても優しい。何時までも責める私に苛立ったりしないで受け止める体制を崩さない。

「でも理沙としては何を言われても納得出来ないよな……本当にごめん。でも誓って馬鹿になんてしてないし、理沙から聞いた事を他の誰かに話した事は無いから」

真摯に謝られると、なぜか私の方が難癖つけるクレーマーの様な気がして来る。

「……もういいよ。これから部長と食事だと思うと緊張していろいろ考えちゃっただけだから」

はあ、と息を吐きながら言うと、奏人は少しホッとした様子で言った。

「あの部長相手にそんなに緊張しないで大丈夫だ。もし何か失敗したとしても食事の席の事を仕事の評価に繋げたりはされないよ。理沙だって分かってるだろ?」

「それは分かってるけど、私は奏人と違って部長達とランチに行く様な立場じゃないから場違い感が凄いの。身の置き場がない感じがすると言うか……正直行きたくない、奏人が断ってくれたら良かったのに」

恨みがましく見上げると、奏人がクスリと笑って言った。

「ごめん、それは無理。俺は部長に感謝してるくらいなんだ」

「感謝? なんで?」

「俺は少しでも理沙の近くにいたいから。その機会を与えてくれた部長に感謝しかない。仕事で組ませて貰えて、休憩まで一緒なんて最高だ」

「な、何それ?」

もの凄く私情が入っているんですけど。

「近くに居ればチャンスも増えるだろ?」

「チャンス?」

「同僚から恋人に戻る為に理沙を口説くチャンス」

奏人がヤケに色気溢れた視線を送って来る。

顔に熱が集まるのを感じて、慌てて奏人から視線を逸らした。

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