別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
部長が選んだお店は、これと言って特徴の無い蕎麦屋だった。

結構な距離を歩いたから拘りのお店に行くのかと思ってたんで、ちょっと拍子抜けした。

でも、案内された席についてお品書きを見て気が付いた。

店構えは普通だけど、ここは結構高級なお店なんだ。

全体的に良い値段だし、多分部長のお気に入りの店だ。

ザッと目を通して、[せいろ 千二百円]に決定した。

ランチにしては高額だし、その割に物足りない気持ってするけど、他はもっと高いから仕方ない。

直ぐにお品書きを見るのを止めた私に、部長が言った。

「中瀬さん、食べられない物は有りますか?」

「特には有りません」

本当はパクチーが苦手だけど、わざわざ言う必要も無いと思い黙っておく。

部長は分かりましたと頷くといつの間にか待機していた店員さんに、にこやかに注文をした。

「ではこちらの天せいろをお願いします」

「はい。皆様天せいろでよろしいですか?」

「はい」

確認する店員さんに部長は、直ぐさま答える。

私は思わず声を上げそうになるのをなんとか堪えた。

心の中では「何で勝手に注文するの!」と叫びながら。

そんな私の心の叫びに気付かず、部長は満足そうに私に言う。

「このお店の天せいろは絶品ですよ。中瀬さんも気に入ると思います」

「そ、そうですか……」

私も天ぷらは大好きです。

特に美味しいお店で食べる天ぷらはサクッとしていて、最高だと思います。

でもお品書きに記載された[天せいろ 二千五百円]を見ると喜んでいられない。

と言うか正直迷惑だ。

ランチ一食に二千五百円……払えない事は無いけど、今迄の節約が全く無意味になってしまった感じがしてしまう。
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