別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
でも、そんな事を思ってるのは私だけなんだろうな。

部長はもちろん役職付きの課長も、未来の社長候補の奏人も二千五百円のランチでダメージを受けたりはしないだろうし。

がっかりした気分でお茶を飲んでいると、隣に座っている奏人が言った。

「大丈夫だよ」
「え?」

奏人は私を安心させようとしているのか、とても優しい声を出す。

多分、私が支払いの心配をしている事に気が付いてるんだ。
一年付き合っていただけあって、奏人は私の事を良く知っている。

私は奏人に対して何も隠して無かった……心から信用していたから。
奏人はそうじゃなかったけど。

ああ、また思考が暗い方へ行ってしまいそう。

態度に出てしまったのか、奏人も表情を曇らせた。部長達の前で話し合いなんて出来ないから、お互い何も言わないけれど。

そのまま、私達の会話は打ち切りになる。

すると、それまで全く存在を感じさせなかった課長が、初めて発言した。

「早くも随分と打ち解けたみたいだね」

課長は、私と奏人を観察でもする様に見据えて言う。

油断ない目付きが少し怖い。

同じ国内営業部でも、私は一課で、課長は二課と所属が違っているから、仕事で関わりが全くと言って良いほど無い。

至近距離で向かい合った事なんて無かったから、こんな風に鋭い眼差しをする人だとは思っていなかった。

私が戸惑っている内に、奏人が返事をした。

「昨日、部長に打ち合わせの時間を作って頂いたので。中瀬さんとは気が合いそうなんで良かったですよ」

奏人は、殆どの人に好印象を与えるであろう笑顔を浮かべる。

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