別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
心配していた天せいろの支払いは、部長がしてくれた。

どうやら初めから、ご馳走してくれるつもりだったみたい。
考えてみれば、部長は私が余裕無いことを知ってるんだよね。

お礼を言うと、気にしないでと微笑まれた。



帰り道も奏人と並んで歩いて行く形になった。

幸いとばかりに、名前の事を聞いてみる。

「課長が『小林さんもホッとしている』って言ってたけど、奏人が名乗っていた苗字と一緒だよね。何か関係があるの?」

「やっぱり気づいた?」

奏人は困ったような顔で言う。

「気づくよね」

「だよな……」

「小林さんって誰なの?」

追求すると、奏人は苦笑いのような表情になる。

多分、聞かれたくない話なんだ。
でも、私は発言を取り消さない。

凄く気になるし、長く騙された私は聞く権利があると思うから。

だから、奏人から拒否されない限り、無かったことにはしない。

じっと、奏人を見つめていると、諦めたような力無い声が返って来た。

「小林は【小林製作所】っていう零細企業のこと。一応さくら堂とも取引があるんだけど、知ってるか?」

「小林製作所? 知らないけど……二課の仕入先?」

私の所属している営業一課は、自社工場で生産した玩具を販売している部署だ。

だから、やり取りするのは国内、海外の自社工場の担当者がメインになる。

国内、海外のメーカーから商品を仕入れて販売する、商社的な役割をしているのは営業二課だ。

「そう。だから滝島さんが知ってたんだよ」

奏人は、「滝島さん」と課長の名前を口にした時、少し暗い表情になった。

本人の前では態度に出さなかったけれど、奏人は課長が苦手なのかもしれない。

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