別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
そんな不安を覚えながらも、黙っているわけにはいかないので、「お疲れ様です」と声をかける。

返事は返って来なかった。

まさか無視?

気まずさが増す状況の中、私は遠慮がちに問いかける。

「十一階でよろしいですか?」

私たちが所属する営業部のフロアは十一階にあるのだけど、最上階の十五階には打ち合わせコーナーも兼ねた広いカフェスペースがある。

昼食後にカフェで一息入れながら午後の仕事の段取りをする人もいるから、課長がどこで降りるのか判断がつかなかったのだ。

「営業部の方でいいよ」

今度は返事が返って来たけれど、愛想の欠片もない。

はっきり言って感じが悪い。

こういう性格の人なのかな?
二課にいる同期から課長の愚痴を聞いたことは無かったけど……。

こっそりため息を吐いていると、エレベーターは十一階に到着した。

気まずい空間から解放される。
ホッとした気持ちで、“開く”ボタンを押し、瀧島課長が先に降りるのを待つ。

課長は当たり前のように、先にエレベーターから降りようとする。

だけど、降りる直前に立ち止まり言った。

「公私混同は見ていて不快だ」

息をのむ私に目もくれず、課長はエレベーターから降りて行った。
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