別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
予定通り仕事を終らせた私は、八時少し前には、美栄に到着した。

引き戸を開くと、ガヤガヤとした話し声が聞こえて来る。

カウンターに六席と、十五人位は入れそうな座敷席、それから奥に個室があるのだけれど、今日はほぼ満席のようだ。

奏人と来ると、だいたいがカウンターに並んで座っていた。
でも今日は話の内容的にも個室の方がいいから、予約を入れてくれていると思うんだけど。

「中瀬様いらっしゃいませ、お席にご案内いたします」

店内を見回していると、店長の奥さんが感じの良い笑顔で声をかけてくれた。

私は常連客とまでは言えないけど、定期的に来ているから顔と名前は覚えてもらっているのだ。

初めて入る個室はこじんまりした和室だった。

畳の上に長方形の机が置いてあり、その周りを座布団が囲んでいる。掘り炬燵式にはなっていないのが少し残念だ。

私は奥さんに奏人が来てから注文することを伝えると、座布団の上に正座した。

机の端に置いてあったメニューを取り机に広げ、なんとなく眺めながら奏人への質問を考えた。

奏人のことだけじゃなく、日中、松島さんに聞いた瀧島課長の事など聞きたいことは山積みだ。

何から聞こうか……考えている内に引戸の扉が開き、奏人が入って来た。

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