別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「食事しながらでいいから教えて。奏人はどうして社長の養子になったの?」

ストレートに聞くと、奏人は戸惑った様子もなく答えてくれた。

「会社を継ぐ為。理沙は社長に子供がいない事を知ってるか?」

私は首を横に振る。

「私、社長の個人的な事は一切知らないの。会社のパーティーで一度奥さんは遠目で見たことがあるけど、社長と仲が良さそうに見えたわ……」

二年前の会社のパーティーのときに見た、奥さんの姿を思い出す。

社長と同年代の、上品そうな女性だった。

「夫婦仲は良好らしいが、子供には恵まれなかったんだ。けど後継者は自分の身内から選びたい。ってことで俺が選ばれたってわけ」


“選ばれた”と言っている割りに、嬉しくなさそうだ。

だるそうに小さな溜息を吐いてから、ビールのジョッキを手にとる。

「奏人は将来社長になりたくないの?」

「え?」

奏人は怪訝な顔で私を見る。

「憂鬱そうに見えるけど」

「……なりたくないって事はない。さくら堂で働くと決めた以上、目指そうとは思ってる」

「本当に? なんか消極的というか、やる気が無い感じを受けるのだけど」

とても野心を持っているようには見えない。
本当は社長の椅子なんてどうでもいいんじゃない?

じっと見つめると、奏人は苦笑いを浮かべた。

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