別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「言い訳みたいになるけど、誤解されると嫌だから言っておく」

「何?」

「旅行のこととか」

「え?」

何のこと? 怪訝な思いの私に、奏人が言う。

「俺達経済的な余裕が無くて、旅行に行った事がなかったよな。ふたりで貯金していつか行こうと話してたけど」

「うん。私は海外に行ったことが無いから、いつか一緒に行きたいって話したよね」

私が管理して、毎月少しずつ貯金をしていたんだ。

「あの頃経済的な余裕が無かったのは本当なんだ。北条性になっていたけど、正式にさくら堂に入社していなかったから自由に出来る財産は無かったし、小林製作所の方も経営が厳しくて、従業員に給料を払うので精一杯だった。早く理沙を旅行に連れていってやりたいと思ってたけど出来なかった」

「あ……うん。そこまで疑ってはいないよ。お金にあまり余裕が無かった事も全然気にしてなかったし」

社長候補の奏人は、今ではとても余裕があるように見える。

最高級のスーツ。時計など持ち物も高級品だ。

だから私が以前は貧乏なふりをしていたと疑うのを心配して、先に言い訳みたいだけど……と言ってきたんだろう。


相当私に気を遣ってくれている。私の態度がそうさせてしまっているのだろうけど
< 80 / 208 >

この作品をシェア

pagetop