別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
少し酔ってしまった私を、奏人はアパートまで送ってくれた。

大丈夫だと断ったんだけど、半ば強引に。

タクシーを使うか、電車で移動するかちょっと揉めたけれど、結局駅前のスーパーで買い物をしたいので電車を推す私の意見が通った。

私のアパートの最寄の駅を出ると、駅前にある深夜まで営業しているスーパーに向かう。

このスーパーは奏人も何度も来た事がある。

夕食のおかずはひとり一品づつ作ろう……なんて話しながらお互い好きなものを籠に入れたりしたな。


今日は、私ひとり分の食材を少し買う。

玉ねぎとキャベツとひき肉などを籠に入れていると、黙って付いて来ていた奏人がぼそっと言った。


「理沙が一度作ってくれた、豚の角煮は絶品だったな」

「ああ……美味しいって全部食べてくれたよね」


奏人の誕生日のディナーに作ったのを思い出す。

誕生日に豚の角煮ってどうなんだろうって気もするけど、奏人の好物を聞いたら「角煮」って答えたから張り切って朝から煮込んだのだ。


とても好評で、作った私も嬉しかったことをよく覚えている。

でも、豚ばら塊肉は結構高いし、煮込むのにも時間がかかるからそれ以来作らなかった。

いつかまた、奏人の為に作る日が来るのかな……それとも二度と来ないのかな。

無意識にそんなことを考えていた自分に戸惑いながら、肉のコーナーを素通りしてレジに向かった。

< 83 / 208 >

この作品をシェア

pagetop