別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
アパートまでの約十五分の帰り道は、穏やかに会話が出来た。

奏人は、昼食の後にどんな仕事をしていたのか教えてくれた。

部長と一緒に挨拶周りで五社も訪問したらしい。

大分ハードだ。休憩する間もなく、移動していたんだろうな。

「私、詳しいこと何も知らなかったんだけど、奏人のアシスタントとして問題じゃない?」

「そうだな。明日の朝、今後のことについて打ち合わせしよう」

「分かった」

すっかり同僚同士の会話だ。

でも、本音をぶちまけてしまったせいで、必要以上に気を張る必要が無くなったから、気分が楽だ。


これなら上手く仕事をしていけそうな気がする。

機嫌よく歩いていたのだけれど、あと少しでアパートが見えてくるところで、昼間のエレベータのことを思い出した。

滝島課長の事は奏人にも話しておこうと思っていたのに、言うのを忘れてしまっていたのだ。

もうあまり時間がない。

「お昼休憩のあとのエレベータで瀧島課長と乗り合わせたんだけど、変な事を言われたの」

早口で言う私に、奏人は眉をひそめてみせた。

「変なこと?」

「公私混同は不快だって……単に食事中の態度のことを言ってるのか、それとも私達のこと何か知っているのかと気になって」

「理沙にそんなこと言ったのか?」

奏人の機嫌が一気に悪くなるのを感じた。

声まで凄く冷たい感じで、私が怒られてる訳じゃないのにちょっと恐い。

声をかけられないまま歩き続け、私の部屋の前まで来ると奏人が真剣な顔で私を見つめながら言った。
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