別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「どうして?」
「信じられない理由で……私ね、奏人に一年も騙されていたの。いわゆる結婚詐欺って感じかな」
「は? 意味分からないんだけど一から説明してよ」
身を乗り出して来る梓の願いに答え、私は昨日の出来事をザックリ語った。
「それは予想外だったね」
梓がしみじみと言う。
「うん。予想外もいいところ。まさか苗字まで嘘だなんて思わなくない?」
「それで詐欺って事なんだ」
「そう。結婚詐欺みたいじゃない?」
適当に注文した唐揚、卵焼、野菜サラダをつつきながら梓は首を傾げる。
「詐欺とは言えないんじゃないかな? 理沙は一円も損してないわけだし」
「お金はね。でも私の26歳の一年間が無駄になったんだから、無罪じゃないでしょ?」
私の年頃の一年ってとても貴重だ。そんな事ある程度の年齢の男性なら分かっていそうなものなのに。
特に奏人は人の気持ちを察するのが得意だから、私との将来の事だって真剣に考えてくれていると思っていた。それなのに――。
ヤケ食いと言わんばかりにこの居酒屋の名物、超特大から揚げを食べていると、それまで何か考え込んでいた梓が、思いがけない事を言い出した。