あの先輩が容疑者ですか? 新人ナース鈴の事件簿
小金色に実った田んぼの土手から姿を現したのは、白いSUV車だ。大き目の車体はパワーがありそうだけど、牽引をお願いするにはきれいすぎる。
鈴はその車は見送ることに決めて歩き続けようとした。
しかし、鈴を追い越してすぐ、ピカピカに磨き上げられたSUV車はハザードを焚きながら、鈴のところまでバックしてきた。知り合いだろうか、と開き始めた運転席の窓に注目する。後ろのほうの鈴の車を指差して笑っているのは、同級生の兄だった。
「鈴じゃん、何、軽トラ落っことしたの?」
「わー、和尚先輩! めっちゃ良い車乗ってますね!」
「お前、その和尚先輩って言うの、やめろよな」
どこかで聞いたような科白なのは、気のせいだったろうか。
苦笑いしているのは、竹中源希、二十五歳。鈴と小中高とも同じ学校で同じテニス部だった二つ年上の男だ。彼の家は寺で、部内ではチクゲン和尚と呼ばれていたのが懐かしい。彼の弟の和希が鈴の同級生で、家に遊びに行ったこともあった。
「乗っていいですか? もう、上着ないとめっちゃ寒いっすね」
聞きながら、鈴は源希の答えを待たずに助手席に乗り込んだ。九月になったばかりとはいえ、標高八百メートルの高見原の現在気温は摂氏七度。鳥肌の立つ寒さである。
「久しぶりだなあ。しっかし、なんで軽トラ? 出荷の手伝いか? 似合わねえんだけど」
鈴は、訪問の仕事に必要で免許取得を急いでいること、仮免許中で実家の軽トラを借りたこと、父親は酒を飲んでいるから、今日は当てにできないことなどを簡単に説明した。
「あーあ。源希先輩、この辺で引っ張ってくれそうな人って、誰ですかね?」
「俺やってやるよ。うちのトラクター出してみるわ」