あの先輩が容疑者ですか? 新人ナース鈴の事件簿
「えっ嘘! 助かります! でも、カーブだけど大丈夫ですか?」
「下の田んぼ使ってなかったろ? あそこ踏ませてもらえばイケるだろ」
りんごに勤め始めてからしょっちゅう帰省している鈴も源希の車を見かけたことはなかったが、源希は米田市役所に勤めていて、ほとんど毎週実家に顔を出しているらしい。鈴が看護師になって、しかも訪問看護ステーションりんご勤務だと聞いて、彼も驚いていた。
「マジか、鈴が看護師? しかも新人か〜」
「別にいいでしょ。源希先輩だって新人じゃないの?」
「俺は三年目だし」
「同じようなもんじゃないっすか」
「いや、今度うちの婆ちゃんが看護師頼むって話になったんだよ。確か、名前が林檎だか梨だか柿だか?」
「それ、うちじゃないっすか!」
この辺りに訪問看護ステーションと言えば、市立病院と数か所の診療所、あとは社会福祉協議会しかない。
頼りにしようと思ってたのに残念、なんて呟きながら、源希は鈴の家の前の狭い駐車スペースにピタッと車を停めた。
「男の人って、ほんと運転うまくてズルイ」
鈴は教習所に通いながら本気でそう考えていたから、思わず口からそんな言葉がこぼれ出た。鈴がそういう可愛くない発言をしても、面倒見の良いこの一つ年上の男には堪えない。
「お前が下手なだけだし。ほら、上着取って来い」
「う〜お父さんに怒られる〜」
「仕様がねえだろーが」