嘘つきには甘い言葉を
だだっ広い芝生の広場にテントやレジャーシートがひしめきあって、通路に向かって商品が並べられている。

金曜日の今日から三日間続くフリーマーケットは、初日に掘り出し物を手に入れようと訪れる人々でごった返していた。

9月上旬の今日は暑いくらいだけれど、朝憎らしいと思った秋晴れが気持ちいい。

「ここで買うのか……?」目を丸くしている水無月隼人は、フリーマーケットなんて初体験らしい。

「そうです。ほら、このワンピース可愛くないですか? しかも1000円」適当に手に取ったワンピースを当てる。チェックのワンピースは去年の物だろうけど、若い女の子に有名なブランドで、意外と可愛い。

「1000円! 1000円で服が買えるのか」本気で驚いている様子はちょっと面白い。

私は調子に乗って、「その上値引きもしてもらえるかもしれませんよ。お姉さん、もうちょっと安くなりませんか?」と店員さんに向き直った。

「んー、じゃあ900円で」と言ってくれた彼女にお金を払ってワンピースを受け取る。

「へぇ……」と頷いている水無月隼人は大きな瞳を少年みたいに輝かせている。何だかわからないけれど、彼のツボにはまったらしい。

「そうだ。昨日のホテル代、あれいらねぇから。って言ってもお前は受け取らないんだろ。じゃ、あれで買ってやるのはありだよな?な?」

詰め寄られて「は、はぁ」と返事してしまう。「よし」と言って水無月隼人は歩き出した。

店頭で女の子に「こんにちは」と声をかけると皆頬を染めて顔を見合わせていたし、「可愛いブーツだね。君が履いてたの? 似合ってただろうな。あと200円安かったら買うんだけどな」しゃがみ込んで女の子に笑いかけると、大抵の値引きは成功した。

「彼女かな?」 「絶対違うよ。似合わなすぎ」なんて囁き声を聞きながら、付き人みたいに彼の後ろを着いて行くだけで、私の両手の荷物は増えていった。

元カノの忘れ物、という店を出していた男の子たちにはサークルの名前を出して「俺、代表なんだ。今度のイベント遊びに来る? 可愛い子いっぱい来るよ」とチケットを渡して、破格の値段で購入していた。
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