嘘つきには甘い言葉を
空がオレンジ色に染まり始めて、私たちは持ちきれないくらいの荷物を抱えて芝生に腰を下ろした。

「全部で18800円。2万いかなかったな」服が汚れることを気にする様子もなく芝生に寝転ぶ水無月隼人は、テーマパークでお気に入りのアトラクションに乗った後みたいな満面の笑みだ。

昨日出会ったばかりなのに、高慢で自分勝手な奴なのに、何だか憎めないと思ってしまう自分がいる。

「あの、ありがとうございます」私は一応お礼を告げた。

水無月隼人はきょとんとした後、笑いだした。「そっか。お前の為に買ったんだったな。忘れてた。ははっ、フリーマーケットって面白いんだな。今日は楽しかった。サンキュ」

こんな風に素直にお礼なんて言われたら、怒ってた気持ちが萎えてきちゃう。昨日あんなにひどい扱いをされたのに、何か変だよ。調子が狂っちゃう。

今日一日一緒に過ごして気がついたことは水無月隼人がとてもモテる部類の人だってことだ。

すれ違う女の子のうち何人もが振り返って彼を見ていたし、「あの人かっこいい」なんて騒ぐ集団もいたぐらいだ。

有名サークルの代表をしているからだろう、知り合いが多いらしく挨拶してくる人も多かった。

そしてその人たちの無遠慮な視線と私を見て「今日は珍しいですね」なんていう発言で、普段連れている女の子は美人でオシャレな子ばかりなんだろうと推測できた。

たまにはダサくて地味な女をからかって遊びたかったの? 

もやもやした思いでいっぱいになった私に
気づかず水無月隼人は「腹減ったな、飯食いに行くか」と立ち上がった。

「ここの焼肉旨いんだぜ。半分は松坂牛で柔らかくて……」「ここのコース料理は旬の魚介が旨くて……」今回は店を決めてくれる気になったらしいけれど、水無月隼人が入ろうとする店はどこも目が飛び出そうな値段だ。

「焼肉は、ちょっと……」「ここも、ちょっと……」
財布の中身を頭に浮かべながら適当な返事を繰り返していると、明らかに不機嫌な水無月隼人が立ち止まって振り返った。

「じゃあ、どこならいいんだ?」
どこって……。頭をフル回転させるけれど、彼の気に入りそうなお店なんて全く浮かんでこない。

大体昨日の2万円で私の財布の中身は3000円になって、昼間のカフェで2000円になった。そしてフリマでワンピースを買って1000円に。

晩ごはんなんて食べられそうにないけれど、それを打ち明けると「俺が出すから気にするな」ってきっと言われちゃうんだよね。困ったなぁ。
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