嘘つきには甘い言葉を
「じゃあ、うちで食べる、とか……」
無理無理無理。私何言ってんの。昨日あんなことがあったのに家に誘うとかありえないし。そもそも水無月隼人は友達でもないんだから。大体ここからうちのマンションなんて電車に乗って30分はかかるのに、腹減ったって言ってた水無月隼人が我慢するわけないし。

ぶつぶつ呟いていたら、「よし、行くぞ。お前の家、どっちだ?」
とやたらに弾んだ声が聞こえてきた。
……よくわからないけど機嫌直ったみたいだし仕方ない。ご飯食べたらさっさと帰ってもらおう。

街から大学までの乗り換え駅から歩いて5分。車通りの激しい大通りの前に私のマンションはある。夏にはお祭りがあって、ベランダから神輿が走り抜けてゆくのが見えた。

「コンビニで飲み物でも買って行きます?」
冷蔵庫の食材を思い浮かべながら水無月隼人に話しかける。冷凍に鶏肉があったし、玉ねぎ、薬味ねぎもあったよね。卵は確か残り4つ。うん、簡単だし親子丼にしよう。

「どっちでもいいけど。お前毎日こんな柄の悪い道を通って帰ってんのか」
「え……はぁ……」適当な返事をしながら思い出していた。同じ言葉を言った人を。

「桜、お前いつもこんな危ない道通ってんのか。 送ってくわ」
「でも和香が……」と言った私に、太陽みたいな笑顔を見せた龍君。

「お前と何かあるなんて和香が疑うわけねーだろ。それよりお前、早く送ってくれる彼氏作れよ」
「だよねー。じゃ、仕方ないから遅らせてあげる」なんて強がった私。

龍君は私のことを友達としか見てなくて……そんなことずっと前から分かってた。
分かってたのにいつか女として見てもらえるんじゃないかとか、二人きりになる度ドキドキしてた。友達の和香に本当の気持ちを言うことも出来なくて……馬鹿みたい。

「俺んち引っ越して来れば?」
考え事をしていた私は思わぬ言葉に耳を疑う。
「え……?」
「だから家に来ればいいんじゃね? 部屋余ってるし」

私が水無月隼人の家に引っ越す? ……何で? 私が思っているよりも、水無月隼人は変な人だ。「もういい」とぶっきらぼうに言われてこの話は終わったけれど、今そんな話してたっけ……?
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