嘘つきには甘い言葉を
私が着いていくことを疑いもせず階段を降りていく背中に「お金、返します」と叫ぶ。
「あれは昨日の飯代」
彼は振り返らない。
「1万円は高すぎます」
「じゃあいくらならいいんだ」
「せいぜい500円、かな。いや、それでも高いか」
一番最後の段を降りようとしたら立ち止まった背中に思いっきりぶつかった。もう、もともと高くない鼻がよけい低くなったらどうしてくれるのよ。
「じゃ、1週間分先払いだな。今日は何作ってくれるんだ?」
えーっと、私、もしかして胃袋掴んじゃった、とか……?
当然だと言わんばかりに私のマンションに向かう背中にため息を一つ、今日のメニューを考える。昨日がお肉だったから今日は魚かな。鯖の味噌煮なんていいかも。じゃあ付け合わせはほうれん草のお浸しかな。
一応栄養士を目指して大学で勉強中な私。メニューを考え出すと栄養バランスが気になって仕方ない。どうして水無月隼人の為に真剣に考えているのかわからないけど、人の為に料理をするって楽しい。
私の料理を水無月隼人は本当に美味しそうに食べてくれたから、拾った子犬に餌をあげるような気持ちになる。そんなこと言ったら怒られちゃうんだろうけど。
「旨いっ!!」
昨日と同じ反応で、米粒一つ残さず完食した水無月隼人。きちんと手を合わせて「ごちそうさまでした」と言う姿はやっぱり何だか憎めない。
「本当に旨いな。料理好きなのか?」
水無月隼人が尋ねてくる。
「私栄養士目指してるんです。だから分量を変えて色々試すのが好きで、自炊の方がお金かからないし」
「へぇ、何で栄養士になろうと思ったんだ?」
私が栄養士になろうと思った理由。高校の時この話をした時、龍君は背中をバシバシ叩いて応援してくれた。意外と女らしいんだな、って言われた言葉を忘れられない。
あの時「龍君の為に作りたい」って一言伝えられたら……何度も考えてしまう。
「父が痛風なんです。知ってます? 風が吹いても痛いから痛風。尿酸値が高くなると病気が悪くなるから尿酸の元になるプリン体をなるべく食べないようにしないといけないんです。でもプリン体って、ビールとかお肉とか魚の卵とか、美味しいものにばっかり入ってて、全部カットすると修行僧みたいな食事になっちゃう。そんなのかわいそうでしょう? プリン体が少なくても美味しいものが作れないかな、と思って。それがきっかけなんです。」
あの時は最後に「だから、私は好きな人が病気にならないように栄養管理してあげたい」って付け加えた。精一杯の私の告白は、鈍感な龍君には届かなかったけれど。
「そうか。……お前、好きな奴いんの?」
龍君のことを考えていた時に水無月隼人からの思いがけない質問。私の心臓は早鐘を打つけれど、気のせいだと思い込む。
「いません!」
好きな人なんていない。龍君の事は忘れるって一年も前に決めたんだし、もう好きなんかじゃないんだから。
「あれは昨日の飯代」
彼は振り返らない。
「1万円は高すぎます」
「じゃあいくらならいいんだ」
「せいぜい500円、かな。いや、それでも高いか」
一番最後の段を降りようとしたら立ち止まった背中に思いっきりぶつかった。もう、もともと高くない鼻がよけい低くなったらどうしてくれるのよ。
「じゃ、1週間分先払いだな。今日は何作ってくれるんだ?」
えーっと、私、もしかして胃袋掴んじゃった、とか……?
当然だと言わんばかりに私のマンションに向かう背中にため息を一つ、今日のメニューを考える。昨日がお肉だったから今日は魚かな。鯖の味噌煮なんていいかも。じゃあ付け合わせはほうれん草のお浸しかな。
一応栄養士を目指して大学で勉強中な私。メニューを考え出すと栄養バランスが気になって仕方ない。どうして水無月隼人の為に真剣に考えているのかわからないけど、人の為に料理をするって楽しい。
私の料理を水無月隼人は本当に美味しそうに食べてくれたから、拾った子犬に餌をあげるような気持ちになる。そんなこと言ったら怒られちゃうんだろうけど。
「旨いっ!!」
昨日と同じ反応で、米粒一つ残さず完食した水無月隼人。きちんと手を合わせて「ごちそうさまでした」と言う姿はやっぱり何だか憎めない。
「本当に旨いな。料理好きなのか?」
水無月隼人が尋ねてくる。
「私栄養士目指してるんです。だから分量を変えて色々試すのが好きで、自炊の方がお金かからないし」
「へぇ、何で栄養士になろうと思ったんだ?」
私が栄養士になろうと思った理由。高校の時この話をした時、龍君は背中をバシバシ叩いて応援してくれた。意外と女らしいんだな、って言われた言葉を忘れられない。
あの時「龍君の為に作りたい」って一言伝えられたら……何度も考えてしまう。
「父が痛風なんです。知ってます? 風が吹いても痛いから痛風。尿酸値が高くなると病気が悪くなるから尿酸の元になるプリン体をなるべく食べないようにしないといけないんです。でもプリン体って、ビールとかお肉とか魚の卵とか、美味しいものにばっかり入ってて、全部カットすると修行僧みたいな食事になっちゃう。そんなのかわいそうでしょう? プリン体が少なくても美味しいものが作れないかな、と思って。それがきっかけなんです。」
あの時は最後に「だから、私は好きな人が病気にならないように栄養管理してあげたい」って付け加えた。精一杯の私の告白は、鈍感な龍君には届かなかったけれど。
「そうか。……お前、好きな奴いんの?」
龍君のことを考えていた時に水無月隼人からの思いがけない質問。私の心臓は早鐘を打つけれど、気のせいだと思い込む。
「いません!」
好きな人なんていない。龍君の事は忘れるって一年も前に決めたんだし、もう好きなんかじゃないんだから。