嘘つきには甘い言葉を
「彼氏はいないよな。じゃ、俺と付き合っても問題ないよな」
「へ?」

目が逸らせなくなるくらいの色っぽい雰囲気で、端正な顔の唇の端を上げた水無月隼人が近づいてくる。
「水無月さんは私の事好きじゃないでしょう。それなのに付き合えません。冗談はやめてください」

頭に血が上って自分でも何を言ってるのかわからない。怒ったふりをして目を逸らしたけれど、頬が熱いのは怒っているせいじゃないことは自分でよく分かってる。心臓の音が水無月隼人に聞こえちゃう。うるさいうるさい……。

大きな手で頬を撫でられてそのまま彼の方を向かされる。背中がぞくりとしたのは恐怖のせいじゃない。

目が合ったと同時に形の良い唇は開かれた。
「俺は好きだぜ」
頭が真っ白になって何て返事をしたらいいのかわからない。水無月隼人も何も言わずに私の事を見つめてる。
「…………」

長い沈黙の後、やっとの思いで声を絞り出す。
「…………無理です。私は水無月さんの事好きじゃないから」
生まれて初めての告白に舞い上がった気持ちは音を立ててしぼんでいく。

いくら周りが羨むイケメンでも、好きじゃない人とは付き合えない。そんなこと水無月さんにも失礼だもの。

「バカ。お前に選択肢はねーんだよ。お前はもう選んだだろ? 友達を傷つけたくないって。自分で決めた嘘はつき通せ。俺がお前に飽きるまで付き合えよ」
真剣に考えた自分が馬鹿だった。

この人はただ面白がってるだけなんだ。きっと自分の周りにはいないタイプだからって私のことからかって遊んでるんだ。そう分かってるのに、私は逆らえない。

天使みたいに純粋な龍君の微笑みを忘れるには、魅惑的な悪魔の罠に嵌るのが一番なのかもしれない……。

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