嘘つきには甘い言葉を
快速電車で30分の距離だけど、地元に帰ると肩の力が抜けるような気がする。改札を出ると長い坂道とその奥の緑。駅前には高校生の時に出来たチェーン店の居酒屋。
入るのは初めてで、妙に大人になった気がしてくすぐすったい。

店員さんの案内で座敷の障子を開くと、騒がしい声が耳に飛び込んできた。
「桜! おかえり」
「あー、桜だー」
「さーくら、久しぶりー」
今日は3ヶ月に一度の「V5」の会。

Vはもちろんバレー部のVで、5は同級生が5人だったことから。弱小バレー部でそれほど上手くもないけれど、ただバレーが好きだった私たち。顧問の先生のお情けか3年生の時は全員レギュラーで試合にも出させてもらってた。大会は一回戦負けだったけど。

今回は全員20歳を迎えたお祝いに初めての飲み会になる。気心が知れた仲間たちの集まりなだけに、皆飲み慣れていないくせにグラスを重ねていた。

高校を卒業して就職したナツミは、上司に告白されて最近付き合いはじめた。
共学の大学に通うカナコとハルは、彼氏はいないもののコンパにサークルにと大学生活を謳歌している。
そして一番の仲良しの皆実は高校の時からの彼氏と、今も付き合っている。

「桜は、いまだに龍君、なの?」
酔いが手伝っているのか、頬を赤く染めたカナコが尋ねてきた。一年前に和香と龍君が付き合うことになったことを報告してから一度も出なかった話題だ。

「……」
いまだに龍君、かぁ。すぐに否定できない自分が情けない。
無言を肯定と受け取ったらしく、カナコが「ごめん」と言って話題を変えた。

明日は月曜日。大学に行かないわけにはいかない。
金曜日に水無月隼人と大学を出てから和香からSNSが来てたけど、また月曜に話すね、と返したきりだ。

私も酔ってるのかな。何だか口が軽い。
「彼氏じゃないけど、彼氏みたいな人……できちゃった」

「「「えっ?!」」」
全員が目を丸くして私に注目した。

「まさかセフレじゃないよね?」
何でもはっきりと口にするナツミが詰め寄ってくる。
「してないよ。でもするかも知れない。K大生だし遊び人でモテる人だから、すぐに飽きられちゃうかも。でもいいんだ。龍君のことは、忘れられる気がする」
ふわふわした頭で言葉を紡ぐ。

性格は相当難ありだけど、顔はとびきり格好いいしサークルの企画に真剣な表情は悪くないと思う。ご飯は美味しそうに食べてくれるし嫌いじゃない。……もう何でもいいや。

「桜も20歳だしね。そういうのもアリじゃない?」とハル。
「でも心配だよー。免疫ないからすぐ騙されちゃうんじゃ」とカナコ。

黙っていた皆実が真剣な目で睨んできた。
「酔いもさめちゃったよ、桜。どんな人なの?」

皆実が心から心配してくれてるのはよく分かってる。でも今日の私は何故だか素直になれない。「進展あったらまた報告するから。もういいでしょ、この話」

皆実の視線を避けるように皆の会話に入っていく。横でつかれた大きなため息も聞こえないふりをした。

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