嘘つきには甘い言葉を
「そんなことより隼人さんはどんな子どもだったの?」
興味半分、ごまかし半分で口にしたけれどうまく二人は食いついてくれた。

「俺も知りたいっす」
「私も。桜ちゃんとの馴れ初めも聞きたいけど」
馴れ初め聞いたらコンパのこと龍君にばれちゃうでしょ……私たちの出会いはあの日なんだから、と思うけれど知らん顔して「ね?」と隼人さんの顔を覗き込んでみる。

騒がしい店内でジョッキの中身を半分まで減らした隼人さんが「んー」と迷ったように口を開いた。
「背が低かったんだ。で、いじめられっ子。本当だよ」

「いじめられっ子?」
私と和香の声が重なった。
今は身長180センチ近い隼人さんがいじめられっ子だったって、信じられない。

「うん。チビで生意気だっていじめられてた」
何でもない事のように口にはする彼の真意は解らない。嘘のようにも聞こえるし、今は全く気にしてないからなのかもしれない。

「いつからこんなに伸びたんですか?」身長にはコンプレックスがある龍くんが尋ねる。龍くんは牛乳飲んだりプロテイン飲んだり頑張ってたのに伸びなかったんだよね。
「高1になる前の春休みで5センチくらい伸びて、その後は半年くらいで30センチぐらいかな。夜伸びるらしくて、何か毎晩身体がみしみしして痛かったよ」

「そっかー、うらやましいぜ……」
呟いた龍君に和香が向き直る。
「龍ちゃんは今のままがいいよ。隣に並んだ時今より顔が遠くなっちゃうのやだもん」
「ばか、どっちにしろ今からなんて伸びねーよ」

照れ笑いしてる龍君と恥ずかしいことを臆面もなく口にしちゃう和香。こんな二人を見ているといつも胸が痛くて、でも温かくて……。
「桜も和香ちゃんみたいに可愛いこと、たまには言ってくれるといいんだけど」という声と共に、頭が大きな掌に包まれた。

「隼人さん‼」
慌てて身体を押しのけるけれど、彼は気にする様子もない。「で、桜の中学時代の話の続きする?」うう……こうやって痛いところついてくるのは本当に上手なんだから。

「そうそう。中3の時なんですけどね。桜の友達が高校生と付き合ってて」
って龍君乗らないの!
「ちょっと! 龍くん‼」
慌てて止めようとするけれど、和香と隼人さんの輝いた目は止められそうにない。

「ト、トイレ行ってくるっ」
こうなったら逃げるしかない自分が情けないけれど、目の前で二人の反応を見るよりはましだ。龍君が続きを口にする前にわざと大きな音を立てて襖を閉める。

あんな話を隼人さんに知られたら、これから毎日馬鹿にされるに違いない。中学生の時は怖いもの知らずで何でも出来た気がする。今となってはただの恥ずかしい思い出だけど、ああいう無鉄砲さってもう持てないなぁ。
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