嘘つきには甘い言葉を
知らん顔して席に戻った後3人も何事もなかったような顔をしていて、少しだけ不自然な空気の中私たちはおしゃべりに花を咲かせた。龍君と和香が時々堪えきれないかのようにニヤニヤしている気がするのは私の思い違いだったのかな。

「そろそろ行こっか」
隼人さんの声を合図に皆が財布を取り出す。伝票には16800円。ってことは一人4000円と端数でいいんだよね。千円札ないなぁ、両替してもらえるかな。と思っていたら、隼人さんの財布から出た2万円でさっさと支払いが済まされる。

「今日は俺出します」
龍君に2万円を押し付けられて、隼人さんは目を丸くした笑顔になって「いいよ、俺が誘ったんだし。一番年上だし」と突き返した。

「ダメです。和香が迷惑かけたお詫びですし。今日は俺が」真面目な龍君は譲らない。
私と和香は、完全に口を挟むタイミングを失ってぼんやりと二人のやり取りを見ていた。

散々お金を押し付けあった後、「じゃあ2件目行きません? 二人で。俺おごるんで」龍君が苦笑いしながら折れた。
「いいね」と隼人さんも納得。
めでたしめでたし。じゃない!
龍君と隼人さんが二人で飲みに?! 

何言われるかわかったもんじゃないんだから何としても止めなきゃ、視線で妨害電波を出してみるけれど二人には全く効果なし。

「隼人さん、帰ろうよぉ」
恥ずかしさを抑えて上目遣いで目いっぱい可愛く言ってみたけれど、「桜、まだいたの?」
とタクシーに押し込められた。

「隼人さん、ごちそうさまでしたー。龍君をよろしくお願いします」
呑気に和香は手を振ってる。じたばたしている間にタクシーは滑るように走りだした。

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