嘘つきには甘い言葉を
「ちょっと和香、いいの?」
「どうして?」
「だって隼人さん、龍君にあの事ばらしちゃうかも知れないよ」
「大丈夫だよ。桜ちゃん」
「どうして大丈夫なんて言い切れるの!?」
思わず声が高くなった私に、怪訝そうな表情を浮かべて和香が言う。
「あんなに桜ちゃんのこと大好きな水無月さんが、桜ちゃんが嫌がること言うわけないじゃない」
隼人さんは相変わらず演技が上手すぎる。
和香の瞳には微塵も疑いが映っていなくて、仕方なく私は諦めることにした。ため息を一つ、考えてみる。
私も多分、隼人さんは言わないと思う。その理由は私の事好きだからではないと思うけれど。今日の様子からして龍君の事を気に入っているのも確かだ。かといって龍君が隼人さんに何を言っちゃうかも心配だ。
……考えれば考えるほど気になって、でもどこに行ったかもわからない二人を捕まえる術もなくて、もういいやと頭を振ったとき、和香が小さな声で呟いた。
「よかったね、桜ちゃん」
「え?」和香に目を向けると、少し気まずそうに彼女は口を開いた。
「怒らないでね。私、本当は心配してたんだ。初めて会った時の水無月さんはあんまりいい印象じゃなかったし、それに」一呼吸おいて続ける。
「桜ちゃんは龍ちゃんの事好きなのかも知れないって思ってたの」
心臓を打ち抜く彼女の言葉に鼓動が早くなる。「どうして?」声が震えたような気がしたけれど、幸い和香は気づかなかったらしい。
「桜ちゃんと龍ちゃんってすごく仲良いでしょ。恥ずかしいんだけど、そんな二人に嫉妬しちゃったこと、何回あるかわかんない。桜ちゃんずっと彼氏作らなかったからいつか龍ちゃんは桜ちゃんのところに行っちゃうのかな、なんて思ったこともあるんだ。
変な事思っててごめんね。
でも今日水無月さんと一緒にいる桜ちゃんすごく女の子の顔してたし、水無月さんが桜ちゃんの事好きなのも解ったから……私、すごく、安心、しちゃって……」
唇を噛んだ和香の瞳から、大粒の涙が零れた。頬を伝っていく水滴を見ていたら私の心からも溢れる感情が止まらなくなる。
報われない片思いを続けているうちに、自分だけが辛いと思っていた。
幸せそうな和香の顔が時折憎らしくて、龍君に愛されている横顔が堪らなく羨ましくて、真っ黒な心で向けていた視線に彼女は気づいていたんだ。
鈍感な子だなんて思ったこともある。彼女が私の気持ちに気づかないふりをしていたのは龍君を失いたくなかったから。
もしかしたら和香は、私がまだ龍君への想いの中で苦しんでいることに気が付いているのかもしれない。それでも私たちはお互い嘘をつきあうんだ。いつか嘘が本当になる日まで。
「ごめんね、和香。私龍君の事が好きだったこと、確かにあるんだ。でも今は違う。だから龍君と幸せになって。私も……幸せになるから」
それだけ告げたら、後は二人とも涙声で何を言っているのかわからなくなった。
私は和香に半分だけ本当の気持ちを伝えられただけで十分だ。隼人さんと、と言えないのは仕方がないけれど、彼のおかげで私は確かな一歩を踏み出せたんだ。
「どうして?」
「だって隼人さん、龍君にあの事ばらしちゃうかも知れないよ」
「大丈夫だよ。桜ちゃん」
「どうして大丈夫なんて言い切れるの!?」
思わず声が高くなった私に、怪訝そうな表情を浮かべて和香が言う。
「あんなに桜ちゃんのこと大好きな水無月さんが、桜ちゃんが嫌がること言うわけないじゃない」
隼人さんは相変わらず演技が上手すぎる。
和香の瞳には微塵も疑いが映っていなくて、仕方なく私は諦めることにした。ため息を一つ、考えてみる。
私も多分、隼人さんは言わないと思う。その理由は私の事好きだからではないと思うけれど。今日の様子からして龍君の事を気に入っているのも確かだ。かといって龍君が隼人さんに何を言っちゃうかも心配だ。
……考えれば考えるほど気になって、でもどこに行ったかもわからない二人を捕まえる術もなくて、もういいやと頭を振ったとき、和香が小さな声で呟いた。
「よかったね、桜ちゃん」
「え?」和香に目を向けると、少し気まずそうに彼女は口を開いた。
「怒らないでね。私、本当は心配してたんだ。初めて会った時の水無月さんはあんまりいい印象じゃなかったし、それに」一呼吸おいて続ける。
「桜ちゃんは龍ちゃんの事好きなのかも知れないって思ってたの」
心臓を打ち抜く彼女の言葉に鼓動が早くなる。「どうして?」声が震えたような気がしたけれど、幸い和香は気づかなかったらしい。
「桜ちゃんと龍ちゃんってすごく仲良いでしょ。恥ずかしいんだけど、そんな二人に嫉妬しちゃったこと、何回あるかわかんない。桜ちゃんずっと彼氏作らなかったからいつか龍ちゃんは桜ちゃんのところに行っちゃうのかな、なんて思ったこともあるんだ。
変な事思っててごめんね。
でも今日水無月さんと一緒にいる桜ちゃんすごく女の子の顔してたし、水無月さんが桜ちゃんの事好きなのも解ったから……私、すごく、安心、しちゃって……」
唇を噛んだ和香の瞳から、大粒の涙が零れた。頬を伝っていく水滴を見ていたら私の心からも溢れる感情が止まらなくなる。
報われない片思いを続けているうちに、自分だけが辛いと思っていた。
幸せそうな和香の顔が時折憎らしくて、龍君に愛されている横顔が堪らなく羨ましくて、真っ黒な心で向けていた視線に彼女は気づいていたんだ。
鈍感な子だなんて思ったこともある。彼女が私の気持ちに気づかないふりをしていたのは龍君を失いたくなかったから。
もしかしたら和香は、私がまだ龍君への想いの中で苦しんでいることに気が付いているのかもしれない。それでも私たちはお互い嘘をつきあうんだ。いつか嘘が本当になる日まで。
「ごめんね、和香。私龍君の事が好きだったこと、確かにあるんだ。でも今は違う。だから龍君と幸せになって。私も……幸せになるから」
それだけ告げたら、後は二人とも涙声で何を言っているのかわからなくなった。
私は和香に半分だけ本当の気持ちを伝えられただけで十分だ。隼人さんと、と言えないのは仕方がないけれど、彼のおかげで私は確かな一歩を踏み出せたんだ。