嘘つきには甘い言葉を
第4章 余計な嘘
「山田 龍之介」と表示されたスマホを目にするとどきりとする。
昨日二人で飲みに行っちゃった後、隼人さんからは連絡がない。私からは絶対連絡なんてしないんだから。

「もしもし」
「桜、おはよ。隼人から連絡あった?」
一晩で龍君ってば隼人呼び。一体あの後二人はどうなったの?

「……ないけど」
「そっか、まだ寝てんのかな。あのさ、一応桜には言っとこうと思って。怒んなよ」
勿体ぶった龍君の言葉に「何?」とぶっきらぼうに返す。本当は気になって仕方がないんだけど。

「隼人、うちのバイト先で一緒に働くことになったんだ。昨日2件目でバイトしたことないのはダメだとか散々言っちゃってさ。そしたらあいつもやる気になって、今日から。勝手に決めちまったけど、桜と会う時間が減るとか怒られんのかなーとか気になってさ。お前も和香と遊びに来いよ、な」

龍君と隼人さんが一緒にバイト。何だか変な事になっちゃったけど、龍君のバイト先と言えばオシャレな創作料理の居酒屋。


白いシャツに黒のネクタイとロングエプロンが素敵で、隼人さんが身に着けたらとびきり格好いいに違いない。制服姿を想像してつい微笑む。
好きとかじゃなくて、隼人さんが格好いいことは私だって分かってるもん。

「なー、聞いてる? ……怒ってる?」
声を潜めて私の様子を伺う龍君が可愛くて「ふふっ」と笑みが零れた。
「いいよ。しっかりしごいてあげてよ。隼人さん世間知らずだから」

隼人さんがバイトなんて似合わないけど、いつもからかわれている私としては絶好の機会、和香と冷やかしに行うっと。

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