嘘つきには甘い言葉を
クラブなんて足を踏み入れるのも初めてで、重そうなドアの前少し怯む。

「うわ、こんなトコ俺緊張する」
「私も。龍ちゃん、離れないでよ」
「おう。俺浮いてないかな……」
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと大学生に見えるよ」
「え? 大学生じゃなきゃ入っちゃダメなのか?!」
「ダメなのかな? 桜ちゃん、どうなの?」

二人らしいやりとりを見て笑みが零れた。
「ふふっ、大丈夫に決まってるでしょ」
何だか肩の力が抜けた気がする。


龍君と和香って、本当に仲が良くて面白いんだから。以前はこんな場面に遭遇するたび胸が痛くて、鉛を抱えているみたいな気持ちになった。
今は……嘘みたいに心が軽い。

暗い階段を降りた先は思ったよりも明るいホールで、派手な衣装を身に着けた男女が溢れていた。見上げると2階にはガラス張りのDJブース、その横にVIPルームだと思う。確か隼人さんはあそこにいるんだっけ。

雰囲気に圧倒され立ち尽くしていると、後ろから肩を叩かれた。

「桜、珍しいね。水無月さんの彼女としてはたまには参加しなきゃってこと? さっき水無月さん、美女たちに囲まれてたよぉ。早く言った方がいいんじゃない? なーんて、じょうだーん」
騒がしいホールの中でもはっきり耳に届く大声は美紀だ。

大笑いして隣の男の人を肩を組んでいるのを見ると、かなり酔っぱらっているみたい。
「もう。飲みすぎないようにね」
釘を刺すけれど、彼女には全く効果なしで「はいはーい」と手をひらひらさせながら行ってしまう。
大丈夫かな。

それに隼人さん美女に囲まれてたって、本当かな。……別に私には関係ないけど。
居心地の悪さに首を竦めて上に上がる階段を探す。

挨拶だけして早く帰ろう。やっぱり私は場違いだったみたい。
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