嘘つきには甘い言葉を
きょろきょろしていると、目の前を女の子のグループに塞がれた。ツインテールで猫目の女の子が少しためらった後口を開く。
「あの、春野 桜さんですか? 水無月さんの彼女の……?」

知らない女の子に隼人さんの彼女かなんて聞かれる筋合いないし、何だか嫌だなと思って言葉に詰まる。

「違うんですか?」
「……確かに春野ですけど……」
言葉を濁してやり過ごそうとするけれど、彼女たちは道を開けてくれない。

人形みたいに綺麗な猫目の子は、私を値踏みするみたいに上から下まで眺めて、もう一度尋ねてきた。
「水無月さんの、彼女なんですよね?」
私が最も答えたくない質問を繰り返してくる彼女に答えられず黙り込む。すると彼女は早口で捲し立て始めた。

「彼女かどうか答えられないんですか? あんなに水無月さんのことを独占してるくせに。
私達水無月さんに憧れてSIZEに入ったんです。今まで彼女が出来ても1ヶ月ぐらいしか続かないって噂だったから、もしかしたら彼女になれるかもって期待してました。それなのにあなたとは3ヶ月も続いてるって聞いて、どんな人か知りたかったんです。

でも……答えられないなんて本当に水無月さんの事好きなんですか? 
好きじゃないんだったら……別れてよ。
水無月さんと付き合いたい人なんていっぱいいるのに、あなたみたいな人が付き合えるなんて、ずるい」

……は?
何で知らない女にこんなこと言われなきゃいけないの?
私の事も隼人さんの事も何も知らないくせに。

言い返そうとした私を遮って、グループの一人が頭を下げる。
「言い過ぎだよ。……すいません。
この子本当に水無月さんに憧れてて。水無月さんに大事にされてるあなたのことが羨ましいだけで……本当にすいません。ほら、行こう」

友達に引きずられるようにして人ごみに消える間も、猫目の子はずっと私を睨んでた。
「桜ちゃん……。気にすることないよ。隼人さんが好きなのは桜ちゃんなんだから」
和香が言ってくれたけど、私は鈍器で頭を殴られたみたいな衝撃に襲われていた。

私みたいなのが隼人さんと付き合うなんてずるい……。
さっき怒りは消え去って、妙に冷静になる。

確かに彼女にあんなこと言われる筋合いはないけど、彼女は身勝手だけど、隼人さんの事真剣に好きなんだ。

私が和香と龍君の強い絆を目の当たりにしてやっと諦められたように、彼女も私と隼人さんが想い合ってることを知って諦めたかった?

私、こんな中途半端な気持ちで隼人さんの傍にいていいの?
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