嘘つきには甘い言葉を
間章 友情と失恋 隼人side
閉まった扉を背に、もう一度壁を叩く。
「くそっ……」

しびれるぐらい強く握った拳からは血が流れて、今更になって痛みを感じる。
背中を壁に預けて拳を見つめていると、妙に高揚した気持ちになる。

気合い入れて準備したクリスマスイベント。
桜が来るって言った時、俺は勝手に、やっと心を決めたんだと思った。以前このイベントには思い入れがあるって話をしたから、きっとこの日を選んだんだと思った。

告白されるんだと思ってた俺は、本当におめでたい奴だ。
あいつがいまだに龍之介のことを想っているとは思わなかった。

「きゃあ、水無月さん? いきなり会えるなんて感激ですぅ」
扉が開いて、目を丸くした女が猫撫で声を出す。俺はこういう男に媚びる女が嫌いだ。女友達の事は平気で裏切るし、男の事を外見と金でしか判断しない。

それでも顔を作って「こんばんは。今日は来てくれてありがとう。楽しんでいってね」と優しい声で囁く。

今は誰かの機嫌なんかとってられねー。ちょっと外に出るか……。
そう思ったのに冷たい風と共に扉が開き、見たくない男が顔を覗かせた。

「おー、隼人! もうすぐ着くってメールしたから待っててくれたのか? こいつ水無月 隼人。俺のダチ」
また違う女を連れてる。

知らせてもいないのにイベントの度に勝手にやってくるこいつは、中学の時からの腐れ縁だ。

面倒になった俺は曖昧な笑顔で女に笑いかける。
「あー、いらっしゃい。俺はちょっと出るけど、楽しんでいってね」
「ありがとうございますっ、よしくん、本当にSIZEの代表と知り合いだったんだぁ」
女は頬を染めて目を輝かせた。

「当然だろ。俺たち親友だからな。じゃあまた後でな、隼人」
人を人間不信に陥らせておいてよく言うぜ。女の肩を抱き寄せて階段を降りていく良夫の姿に昔を思い出す。
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