嘘つきには甘い言葉を
土曜日、エアコンをつけるのも面倒で布団の中でゴロゴロを繰り返す。ピンポーン、甲高い音が響いて来客が知らされた。

誰かと約束をしていたわけでもないし、お母さんでも来たのかな。
起き上がって視線を下げるとスウェット姿で多分髪もぼさぼさ。
まぁいっか。

ドアスコープから覗いたのは見慣れた顔で、「はーい。どうしたの?」私は首を傾げながら扉を開いた。

「桜ちゃん……あのねっ、龍ちゃんにチョコレート作ろうと思ったんだけど上手く作れなくて。桜ちゃんと一緒に作りたいなぁと思って来ちゃった。材料いっぱい持ってきたんだ。
……迷惑かな? ごめんね」
何だか迷ってるみたいな和香は少し挙動不審。電話もしないで来るなんて珍しい。

「いいよ。退屈してたし。こんな格好でごめんね」

私は彼女を招き入れる。

「私本当に料理ダメで、ごめんね」
しきりに謝りながら次々と材料を並べていく和香。
一人暮らしにしては広めの調理台だけど、袋から出てくるチョコレートでいっぱいになって私は思わず噴き出した。

「どれだけ作るつもりなの?」
「トリュフと、ガトーショコラと、クッキーと……とにかく失敗してもいいようにって思って」
「龍君、甘いもの好きだっけ?」
「……好きでもないんだけど、やっぱりこういうのって気持ちだし、桜ちゃんと作りたかったの」

そっか、明日はバレンタインデーなんだ。
自分には縁のないものだからすっかり忘れてたけど、スーパーの特設コーナーには色とりどりの包装紙に包まれたチョコレートが並んでた。

どうせ一人でいてもゴロゴロして終わっちゃうんだし、和香とチョコ作るのもいいかも。あげる人もいないから自分で食べちゃえ。
食べ過ぎて太ったら……まずいかな。まぁいいや。

「了解。付き合うよ。じゃあまずは手を洗って、トリュフからいこっか」
「ありがとー、桜ちゃん!」
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