嘘つきには甘い言葉を
はぁ……やっと終わった……。

思わず座り込んだ私は、思い出して水無月という人にお礼を言う。
「あの、ありがとうございました」

……やりすぎだけど。
真面目な龍君の事だから、飯いつにする? とか絶対聞いてくる。
その度誤魔化すなんて頭が痛い。

「今晩楽しんで下さい、だって。ちょうど今夜は誰かとやりたい気分だったのに、やっかいな子押し付けられて面倒だと思ってたんだよな。お前、責任とってくれるよな?」

やりたい……? 責任……?

いくら経験のない私でも、言葉の意味くらいはわかる。

「冗談やめてください。私帰ります」
立ち上がってドアノブに手をかける。
早く逃げなきゃ。

「ふーん……。龍之介、ホントいい奴って感じだよな。おっとりした和香って子とよく似合ってる。でも、今日の事知ったら別れるんだろうな? 電話、かけよっと」

背中で笑いを含んだ声がして、私は立ち止まった。勢いよく振り返って彼の元に駆けていったら、スマホから「もしもし?」という声が聞こえてきてどきりとした。

「あ、龍之介君? ごめん。メール送ろうとしたら、間違ってかけちゃってさ」

「そうなんですか? 全然いいです。今日は本当にすいませんでした」

「あのさ……」言いかけた彼を見つめて激しく首を振る。お願い、言わないで。
二人が傷つくのも、悲しむのも私は嫌だ。正直二人が別れればいい、なんて何度思ったかわからない。

だけど今、私は龍君の悲しむ顔を見たくない気持ちでいっぱいだ。

「なんですか?」呑気な龍君。
一途で真面目な彼は、絶対に浮気なんて許さない。和香は頼りないところはあるけれど、人数が足りないって言われて断れなかっただけ。龍君を裏切る気持ちなんて絶対になかったんだから。

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