嘘つきには甘い言葉を
いつも通りご飯粒1つ残さずに綺麗に食べた後、「旨かった。ごちそうさん」と言って隼人さんがシンクに立つ。
「片付けするよ」

「これからずっと一緒にいるんだからたまにはな。ゆっくりしてろよ」
シャツの腕を捲って洗い物をする姿も妙に格好いいし、告白してから隼人さんはとろけるような甘い言葉ばっかりで……。慣れてない私はもうお腹いっぱいです。

心臓が忙しくなってしまうから、ごまかすように私は部屋に向き直った。白と黒でまとめられたシンプルな部屋は隼人さんらしい。テレビの横の本棚は難しそうな本ばかりだったけど、私の視線は一番下の段の卒業アルバムを捉える。

そういえば初めて家に来たとき、隼人さんも卒業アルバムを見てたっけ。あれは中学のだった。私は洗い物をしながら龍君に恋してた時の事を思い出していたんだ。隼人さんって高校生の頃ってどんな感じだっのかな。
モテたよね……きっと。
うん、間違いない。

「アルバム見てもいい?」
「ん」
短い返事を肯定だと受け取って、私は濃い緑色の本に手を伸ばした。高校の名前に見覚えがある。私の地元の一番優秀な高校だけど、それだけじゃない。
隼人さんって私の一つ上だよね。

1年1組のところに隼人さんを見つけた。整った顔は変わらないけどチビだったって本当だったんだ。いじめられっ子ってのも、本当?

2年1組になると……完全に今の隼人さんだ。1年間ですごく身長伸びたんだね。
細かい機械音がして、美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐり、タオルで手を拭いてマグカップを二つ手にした隼人さんが隣に並んだ。

「座れば?」
アルバムを本棚に戻して、白いふかふかソファーに腰かける。

インスタントとは違って深い香りのカフェラテ。細かいミルクの泡まで載ってて、一口口に含むとすごく美味しい。

「お前に2回目に殴られた時、もしかしてって思った」
隼人さんが口を開く。
何がもしかして、なの?

2回目って、隼人さんの頬を叩いたのは出会った日の1回きりだと思うんだけど。2回目は避けられちゃって……キ、キスされたんだもん……。
な、何思い出しちゃってるの。

頬が熱い。
だ、だから、2回目なんてないもん。
……ないよね?

「2回も殴ってない、よね?」
上目づかいで様子を伺うけど、眉間に皺を寄せた隼人さんが睨んでる。
どうやら不正解らしい。

考え込んだ私の横で、隼人さんはのんびりとカップに口をつける。
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