嘘つきには甘い言葉を
「そっちこそ馬鹿じゃないの。
本気にならないとか格好つけてるけど、そんなの傷つくのが怖くて逃げてるだけじゃない」
思わず確かめるように呟いた言葉は、私の肩に顎を乗せた隼人さんの耳に届いたみたい。

「あの頃俺、友達だと思ってた奴に裏切られて投げやりだったから。友達のために知らない高校まで来て、危ない目に遭っても逃げないお前の事馬鹿なやつって思った」

馬鹿なやつ……まぁ、仰る通りですけどね。
……ん?
どういう意味?

「でも嫌いじゃなくて。お前が俺の友達だったら、俺もこんな風にならなかったのかな、なんて思ったんだ」
……。
「隼人さん、だったの?」
いい思い出じゃないから、相手の顔なんて全然覚えてなかった。思い出そうとしてもやっぱりぼんやりと浮かぶだけだ。
あれが、隼人さんだったんだ。

私を包む両手に力が入る。
「気付くの、遅せーよ。ちゃんと俺、お前に言われた通り色んなこと本気でやってきたんだぜ。恋愛は、上手くいかなかったけど」
「どうして?」

隼人さんが本気で付き合ったなら、長続きしないなんて噂が立つはずないのに。首を傾げたら、耳元で水音が響いた。み、耳にキス、された。
だけじゃなくて、耳たぶに舌が這わされる。

「やっ……」
身を固くした私に、隼人さんの甘い声が届いた。
「桜じゃなき本気になんてなれないってこと。わかれよ、鈍感。
お前は友達なんかより、彼女がいい」

私の右手から、いきなり飲みかけのコーヒーが奪われた。カツンと高い音がしてテーブルにカップが置かれる。
何で? と思ったら肩をポンと押されて、視界が反転した。
……ソファーに押し倒されたんだ。
……えぇ?!
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